八時四十五分なのよ、お控えなさい!
前略。 祥子さまは悪人どもをにらみつけ、 「お静まりなさい! この紋所が目に入らないの!!」 「そ、それは!?」 祥子さまの手に輝く印籠の、ご紋は勿体無くも――三つ葉ローズ! あっとおののく悪人たち。 「こちらにおわすお方をどなたと心得ていて!? 畏れ多くも先の紅薔薇さま、水野蓉子公にあらせられるのよ!」 「ひえっ!!」 「一同の者、前紅薔薇さま(プレセダン・ロサ・キネンシス)の御前よ! 頭が高いわ! 控えなさいっ!!」 「ははーっ!!!」 (あ、あの……お姉さま) 祐巳が何も言わない間に、祥子さまはおひとりで定番のセリフを全部言い切ってしまわれたので、仕方なく祐巳は刀代わりの傘をブンブン振り回した。 「――何をやってるの、祐巳。早くこの連中に罪状を告げてやるのよ」 「そんな、お姉さま、ずるい」 祐巳は思わずそう言ってしまって、祥子さまは呆れ顔に、 「あなた、こんな時に何を言っているの?」 「だってお姉さまは決まりの格好いいセリフを全部お取りになって、あとのアドリブ部分は私に押し付けるんですか」 「押し付けるですって? いつからそんな口をきくようになったのかしら」 「小心者の私には、お姉さまのお振る舞いの一つ一つがグッサグッサとこたえるんです」 「小心者が聞いて呆れるわ」 祥子さまは印籠を引っ込めて、 「難しく考えずとも、簡単に総括すれば済むことでしょうが。アドリブ部分の練習もしておかないと、もし午後八時四十五分頃に私が不在の回の場合、あなたひとりで全部言わなきゃいけないのよ」 そこへ蓉子さまが、 「もういいわよ、祥子」 「でも、ご老公」 「いいから私に任せておきなさい」 「ご老公はこの子を甘やかしすぎですわ」 「あら、お祖母ちゃんが孫を甘やかすのは当然でしょう」 蓉子さまはそうおっしゃって、カッカッカッとお笑いになった。 |
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