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トトロの森

  

 

 

 K駅、M駅の界隈には、いろんな生き物が住んでいるのです。

 ――そう、あなたのとなりにも――

 

 

「栞」

 好きよ、と言って、私は栞の唇に自分の唇を寄せた。

「嫌っ……」

 微かに触れあった瞬間に、頬に痛みが走った。どうやら私は、抵抗した栞に叩かれたらしかった。

「トトロ様がみてるから……!」

 栞のちょうど後ろには、――

 栞のちょうど後ろには、――

 栞のちょうど後ろには、――

 

 ……。

 思わず壊れたレコードしてしまった。

「ト、ト、トトロ……?」

 ――それは、

 ふさふさした全身の毛、ずん胴むっくりの体型。

 とがった耳に、どんぐりまなこ、長いおひげ。

 灰色の地に白いおなか。

 胸元には、ぶち模様が点々と散っている。 

 身長二メートルほどもあるだろうか、――栞のちょうど後ろに、トトロは悠然と鎮座していた。

 トトロのちょうど後ろには、マリア様像が慈悲深いほほえみをたたえて私たちを見下ろしていた。

「――なによ、これは?」

「トトロ様よ」

「――いや、それは分かるけど」

 地元だし。M駅の近くに美術館もあるし。

「ここはお御堂、リリアンの中でも、もっとも強力なマリア様の結界が張られている場所ですもの」

「――なによ、結界って?」

「トトロ様は、――トトロ様はマリア様の〈み使い〉ですもの」

「だから、なによ、結界って?」

「マリア様がトトロ様を召喚された。――もう、だれにも止められないわ」

「それが、栞の答え?……」

 栞は何も言わなかった。

 ――つっか、人の話を聞いちゃいねえ、この女。

 しかし、――なによ、その〈マリア様の〈み使い〉〉ってのは。

 それとも何か、〈み使い〉ってのは、――

 たとえば昔ばなしかなんかで、キツネがお稲荷さんの使いで、カラスが天狗の使いだとかいうのと同じように、トトロってのはマリア様の〈み使い〉なのか?

 おい栞さんよ。――

 ごごごごごごごごご…………

「な、なに!?」

 とつぜんの地鳴りが私の足元を揺るがしはじめた。

「――はじまったわ、グランドクロスが」

「……ぐ」

 ぐらんどくろす? 

「四人の〈み使い〉を率いる〈〈み使い〉の長〉――暁の子〈トトロ〉襲来」

「…………」

 栞って、――ひょっとして、そちら系の人?

 いや、つまり、天使とか悪魔とか、ブッダとか四天王とか、それからハルマゲ丼の大盛りつゆだく玉入りとかが、頭の中で飛んでるタイプ?

「南無ガブリエル、南無ミカエル、南無トトロエル――南無三位一体」

「…………」

 マリア様、私はどうすればいいのでしょう。

 ――私は生まれて始めて、マリア様に祈った。

 私の恐怖をよそに、栞の口から静かな声が漏れる。

「暁の子トトロよ、いかにして天より堕ちしや。

 なんじ、心のうちに思えばなり『われ高き山の頂に登りて、至高の主のごとくならん』と」

 栞は手を組んで膝をついた。お祈りのポーズだ。

「天にましますわれらの父よ!」

 栞は鋭い声で叫んだ。――主の祈り?

「なにとぞリリアンを安寧に導きたまえ! 願わくは、わが身をもって代わらん、――リリアンの身代わりに、この、――この栞を、み許に召したまえ!」

 そのとき、じっと立ち尽くしていたトトロが、ゆっくりと歩を運び始めた。

「――栞!」

 やがてトトロは悠然と栞の前に立った。

 栞は祈りのポーズを解いて立ち上がり、トトロにそっと、寄り添った。

「栞!」

 栞はそっと、トトロの胸に手を当てて、顔を伏せた。

「それが、栞の答え?……」

 栞は何も言わなかった。肩で息をしたまま、顔を伏せている。

 その栞を、トトロの両腕が抱きしめる――には、短すぎて無理そうに見えたが、とにかくトトロは栞を抱いた。

 抱きついた。

 そして、栞はトトロに抱きついた。

「わかった」

 私はうなづいて、栞に背を向けた。

 とつぜん、すべてがわかってしまうことがある。私はトトロに負けたのだ。

 おかしくて涙も出やしない。

「さようなら、――聖」

 それでも、栞の声に、私は思わず振りかえって、

「あ!――」

 ぶおおおおお……突風に枯れ葉が舞い上がる。

 突風を起こして、トトロが、――栞をしっかりと抱きしめ、抱きついて、そのまま宙へと舞い上がっていく。

「栞!」

 澄みわたった天空の彼方へ、トトロと、トトロに抱きついた栞の姿はだんだんと遠くなっていき、――

 そして芥子粒ほどになって、消えていった。

 

 ――いつのまにか、地鳴りはやんでいた。

「――栞」

 栞。

 かわいかったよ。

 栞に抱きついたトトロと、トトロに抱きついた栞と。

 ――どちらがより、かわいかったかは、よく分からなかった。

 ただ、そのとき、私は、

「抱きつきたい――」

 私は、つぶやいた。

 抱きつきたかった。

 

 その後、栞の姿を見ることは、二度となかった。

 そして、トトロの姿も。

 

 

「ぎゃん!」

「『ぎゃん』って、祐巳ちゃん。トトロの子供じゃないんだから」

「な、何なんですか、トトロの子供って。トトロがぎゃんって叫ぶんですか?」

「知らない。――まあよいではないか、よいではないか」

「ちょっと聖さま、抱きつかないでください!」

「いいじゃないの、減るもんじゃなし」

「減りますっ!」

「はっはっはっ、祐巳ちゃんは面白いことを言うね」

「聖さま。今のその笑い方、――何となく柏木さんみたいで嫌なんですけど」

「……」

 ――そんなものにはなりたくない。

 

 というわけで、私は、トトロになりたかったのだった。たぶん。

 

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