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議長まっしぐら ―銀杏英雄伝説―

 

 

 

 「いやよ。どうして江利子の演説なんて、わざわざ拝聴しなくてはいけないの」

イゼルローン要塞司令官・兼駐留艦隊司令官のヤン蓉子は、聞く前からなんだか気が重かったのだけど、

「これも給料のうちですわ、お姉さま」

「……言うわね、祥子」

蓉子は自分の被保護者、つまり養子の祥子・ミンツを軽くにらんだけれど、祥子は笑い返してきただけで。

(まったく!)

宮仕えの辛さばかりは、専制主義でも民主主義でも変わらないようだ。

蓉子がため息をひとつ、つくのを見はからったように、祥子が疑問をぶつけてくる。

「それにしても、超光速通信を使っての議長さまの演説、重大発表というのは、いったい何なんでしょう?」

「どうせたいしたことではないでしょう。公私混同、公費を使って公職にある人間を動かして、自分の選挙活動をするのは、堕落した政治家の常道よ」

いまさらマリア・ハイネセンさまの理想も何もあったものではない。

首都に聳え立つマリア様の像、両手を大きく広げたそれは、あれはきっと後世の政治家の堕落を見越した、嘆きのあまりに手を広げているに違いないと蓉子は思う。

「……はじまったようです」

祥子に注意を促されて、蓉子は逆によけい気分が萎えるのを覚えた。

正面の大スクリーンに映る議壇。その壇上に、最高評議会議長、すなわち自由惑星同盟の元首である、江利子・トリューニヒトが進み出る。

人呼んで〈華麗なるタイの詭弁家〉――その名のとおり、タイを模範的なまでに美しく結んだ正装で江利子は姿勢を正し、真正面を見据えた。

「――あっ」

カメラが唐突にズームインして、スクリーン上部に髪を上げた江利子の額が大写しになり、蓉子は思わず仰け反って、席から滑り落ちそうになる。

「……デコでひとを脅かすだなんて」

あなどれない江利子め。

同盟国歌――『民主主義の心』――の吹奏が終わり、演説が始まった。

「――市民諸妹!」

(――あ)

江利子の声はスピーカーから、文字通り響き渡って、蓉子はちょっと姿勢を正してしまって。

「本日、この日この時において、みなさんの前に立ち、これから申し上げる事実を告げる機会を与えられたことは、私の無上の喜びとするところですわ!」

「……勝手に喜んでらっしゃい」

憎まれ口を叩きつつ、蓉子はしかし内心では、ふと不安を覚えていた。

祥子が少し感心したように言う。

「……よく透った声であることは、認めなくてはいけませんわね」

蓉子は思わず肩を震わせる。

(――それこそが、不吉な)

この議長がこの声で喋るときにはろくなことがない。

なにかしら、一定以上に興奮しているときの声だ、これは。

――蓉子が思い惑ううちにも、演説は続く。

「――わが国はかつて、シスターフッドを求めて亡命する人々を拒んだことはありません。そして多くの人々が、狂った男どもの、プレゼント攻勢やデート攻勢を逃れ、安定した睡眠時間と安らぎを求めて、この国へとやってきたのです。そう、あたかも砂漠の中のオアシス、街中の動物園のように!」

(……)

動物園とかいうあたりに、妙に実感がこもっている。そういう経験があるのかしら。

「高級ホテルのフランス料理より、一本の芋を分け合う姿勢こそ大切なのです!」

何だかよく分からない。

「ああ、芋を分けあって貧乏に耐え、傘張り浪人の妻となるをいとわず!」

(……お金はあった方がいいわよ)

安定した老後と年金生活のために、こうやって軍人稼業を勤めている蓉子としては、ついそう言いたくもなってしまう。

「……しかしいまだかつて、これほど驚きをもって迎えられるべき亡命者がかつていたでしょうか!」

(だれよ、それは?)

いいかげんもったいぶるのね。

「この名を口にすることに、私は特別な感慨を抱かざるをえません!」

だから、誰なのよ?

「――すなわち」

そこまで言って江利子は、一瞬押し黙ると、

「ヤマノベ・フォン・ゴールデンバウム!」

「――――は?」

蓉子のついもらした声は、司令室中に聞こえただろう。

――なぜなら司令室は一瞬にして静まり返ったから。

いや、このときただいま、おそらくは自由惑星同盟のありとあらゆる、場所という場所が、名前の意味を理解したその瞬間に静まり返って物音一つしなかったにちがいない。

「――帝国皇帝が、亡命!」

しばらくおいて、祥子が呆然とつぶやいた。

みんな、それを合図としたかのようにざわめき始めた。

――なぜ、どうして、

――銀河帝国の支配者、今上皇帝が、

――ルドルフの子孫、ゴールデンバウム家の当主が、

亡命してきた!?

支配する星々も、臣民も捨てて!?

(いったい、何が)

さすがに言葉のない蓉子をおいて、スクリーンの中では事態が一方的に進行していく。

「さあ、どうぞ!」

江利子の掛け声ともに、壇上に一人の人物が現れた。真っ黒なヒゲに覆われた顔の、

(中年?)

でもよく見ると30代くらいにも見える。帝国皇帝ヤマノベ二世は、多分けっこう若いはずだ。そのヒゲ男が話し始めた。

「――銀河帝国皇帝、ヤマノベです。このたびは自由惑星同盟の人道的ご配慮により、亡命を認めていただいてありがとう――」

ございますというのをさえぎって、江利子がまくし立て始める。

「ところでヤマノベさん、なぜ亡命を決意されたのですか? お金がなくなったからですか? 趣味の化石を求めてですか? それともひょっとすると再婚を強制されそうになって、亡くなった皇后へ義理立てしようとか、そういった理由ですか?」

「――いえ、あの」

「とにかくご心配はいりません。自由惑星同盟は一生、あなたの身柄を保証します!」

「――あの」

ヤマノベ皇帝は何かいいかけたが、そこへバタバタと制服をひるがえして駆け込んできた警備員が、

「た、大変です議長! 憂国騎士団の面々が、議長をたぶらかす不逞の専制君主を成敗すると、この会場の入り口まで押しかけてきましたわ!」

「何ですって! 全くあの男どもは! 選挙が終わって拘束を解いてやったからといって、もう勝手に動き出して!」

江利子が怒り出した瞬間、映像はぷつりと切れ、

〈これで議長の緊急声明を終わります〉

字幕が流れて、放送は終わった。

「……お姉さま」

「――まいったわね」

こともあろうに、男子の亡命を認めたというの?

(この民主主義の国、マリア様のお庭に)

さすがに驚いて、何か言おうとは思いつつも、蓉子はそれ以外の言葉がなかった。

 

 

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