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銀杏鉄道999

The Ginnan Express

       

 

 

第2話

黄薔薇革命の赤い風

 

 

 オレンジ色の空、砂塵の舞う赤い大地――ここは火星。

 荒れ果てた宿場町の、とある酒場。

 カウンター内、ベリーショート、背の高い白皙の美少年……っぽい少女が、手持ち無沙汰げに竹刀を磨いている。カウンターをはさんで向かいには小説を読みふける少女が一人。

 ホオォォォォ……

 どこからか高らかに、汽笛の音が聞こえてくる。っポイ少女が顔を上げた。

「……あれは?」

「銀杏超特急999号が、この火星にやってきたのよ」

 そう言って小説の少女――由乃は顔を上げると、本を閉じて立ち上がり、

「ごきげんよう」

 そのままポイと何かを、カウンターの中に向けて放り投げた。

「なあに由乃……金貨と――ロザリオ……ロザリオ?!」

「おつりはいらなくってよ、マスター令ちゃん。私はもうすぐ、この星からいなくなっちゃうんだから――ロザリオも返すわ」

「な、何ですって!」

 令ちゃんと呼ばれたマスターは、カウンターから身を乗り出して、由乃の腕をつかむと、

「ど、どうしてロザリオを! いや、それはおいても、い、『いなくなる』ってひょ、ひょっとして、お医者さんに何か言われたの?! 大丈夫よ由乃!! 何なら他の病院に」

「――この世から『いなくなる』じゃないわよ」

 由乃は令ちゃんの手を振り払って、

「私は999号にのって、この星におさらばすることに決めたの」

「――999号?」

 令ちゃんはポカンとなった。とてもミスター・マーズとは思えない間抜け顔だ。

「キップは高いけど――何とかなるわ」

「キップ?」

「もし私がしくじっても、墓はいらないわよ」

「は、墓?」

「火星の赤い風が吹いてくれるだけで、私は満足よ」

「あ、赤い風?」

「……バカみたいに繰り返すのはやめてくれない、令ちゃん」

「……由乃」

「なによ」

「言いたくないけど」

「?」

「あなた、墓だとか赤い風だとか――ぜんぜん似合わないわ」

「――――令ちゃんのばか!!」

 似合わないかどうかより、他に気にすべきことがあるだろうと、由乃は憤慨した。

(そんなトンチンカンだから――田沼ちさとなんかと噂を立てられたりするのよっ)

 あのアバズレっ!――由乃は歯をバリバリと食いしばった。

 もう、何が何でもこんな星なんか、でていってやるっ!

 

 列車が完全に止まるのを待って、祐巳は網棚からマントを下ろした。――祥子さまは座ったまま動こうとしない。祐巳は首をかしげて、

「あれ、祥子さまは降りないんですか?」

「いろいろと用があるので、列車からは出ないわ――降りるの?」

「せっかく来たので、町に行ってきます」

「……そう、好きになさい。気をつけるのよ。言ったとおり、乗り遅れても、タイを乱したまま帰ってきても、だめよ」

 祥子さまは祐巳に向き直って、

「そしてくれぐれも、特にロザリオには気をつけて……この星では」

 祐巳はうなづいて席を立った。――

(――ひょっとして、降りない方がよかったのだろうか)

 町は荒れ果てて、ネコの子一匹見当たらない。

(おなか、すいたなあ)

 レストランも何もない。

(999って、食堂車あるんだよね)

 祥子さまにお願いして、連れていってもらえばよかった。

(そしたら一緒にご飯が食べられたのに――あ)

 酒場を見つけた。扉の前に、マスターとおぼしき格好の青年が、竹刀を抱きかかえて、ぼんやりと、というか呆然として座っている――って、え?

「ごめんなさい、てっきり男の人かと」

「いいのよ、慣れてるから」

 マスターならぬ女主人は、私の名前は令、と名乗った。

「令――さまですか」

 思わず〈さま〉付けで呼びたくなるような、りりしい美人さんだ。令さまは笑って、

「あなた――ひょっとして地球から、さっき到着した999号で?」

「な! なぜそれをっ!」

「……私の顔を知らないから、よそ者とすぐわかるのよ」

 今では住民も少ないしね。――そう言ってなぜか令さまは顔を伏せ、ため息をついたが、すぐ顔を上げて、

「ねえ。よければ馬車でこのあたりを案内してあげましょうか」

「案内を? よかった、右も左も分からなかったんです。ぜひお願いします」

「そう……裏の馬車のところで待ってて」

 祐巳が言われたとおり待っていると、やがて令さまはなにやら大きめの保温ケースを抱えてやってきた。それも、たくさん。

(いち、に、さん……何が入ってるんだろう?)

 興味津々の祐巳をよそに令さまは荷物を積み終えると、

「行きましょうか」

 馬に鞭をくれて出発した。

 

「あの……ここはどこですか?」

「墓場よ」

「はははは、は、墓場?!」

「火星の厳しい自然に耐えるための、剣道の練習……それに敗れて、死んでいった入植者たちの、ここは墓場」

 そういって令さまは、かたわらの竹刀を取り上げると、

「降りて」

 ――ひょっとして、何だかピンチ?

「あなた――999の乗客だというなら、ロザリオを持っているわね、特別な」

「特別なロザリオって……銀杏鉄道スールのパスのことですか?」

 祐巳は思わず、懐のロザリオに手をやった。そのとき、墓標の陰から、

「そうよ。それを私にちょうだい」

 女の子が現れた。

「私の名は由乃。そのロザリオをもらって、今度は私が銀杏鉄道のスールになるわ」

「そ、そんなこと言われても」

「令ちゃん!」

 ぼかっ!!

「う……」

 ――『くれぐれも、特にロザリオには気をつけ……』――

(祥子さ……ま――)

 気が遠くなっていく。

 

 令は、竹刀で殴り倒した祐巳ちゃんのふところからロザリオを取り上げて、由乃にわたした。

「これでいいのね」

「ありがと令ちゃん、やっと999に乗れるわ」

「そう……ところで由乃」

「なあに?」

「せっかくの旅立ちだから、あらかじめ作っておいた出来合いばかりだけど、こんなものを用意したの」

 令は、馬車の後ろから折りたたみ式のテーブルを取り出してきて広げた。それから大きな保温ケースをいくつも持ってくると、

「さあ、見て」

「うわぁ……すごい!」

 由乃は目を見張った。なぜならケースの中には――

「ホットサンドがいっぱい! 中身は、えっと――クリームコロッケにチーズに千切りキャベツに、ツナにローストチキンにゆで玉子に目玉焼きにカニにほうれん草にトマトに――こちらはチョコレートね、トリュフにガナッシュにオランジェットにモノカルプにアマンドにポンヌ、おまけにガトーショコラまで――いっぱい、いっぱい!」

 ――ぎっしり詰め込まれていた。

「出発までもう時間がないでしょう。殺風景な場所だけど我慢してね」

「ありがとう、令ちゃん」

 由乃はいそいそとテーブルについた。令が横で給仕してやる。

「おいしーい。令ちゃん、さすがね、もう食べられないのかあ……あ、でも私、決心は変えないからね!」

「はいはい」

「何よ、もう!……まあいいわ」

 由乃は食べるのに専念していた。やがてホットサンドがぜんぶ胃袋におさまる。令は小皿をとって、

「さあ……こちらのチョコレートもどうぞ」

「うん」

 うなづいて口に放り込み、トリュフを手にとって――由乃はとつぜん、大きなあくびをした。

「由乃?」

「ふわああ……何だか眠い」

「そう――眠い?」

「うん……眠くて――」

 そのままゴンと音立てて、由乃はテーブルに突っ伏した。皿やコップがひっくり返る。

 令はテーブルの上の惨状には目もくれず、由乃を抱き上げて馬車の中に担ぎ込むと、つづいて倒れたままの祐巳ちゃんを引き起こし、

「起きて……起きて!」

 ペチペチ頬を軽く叩いた。まぶたが動く。

「うーん……」

「ごめんなさいね、痛かったでしょう。いま手当てするわ」

 令は祐巳ちゃんの頭に薬を塗って、手早く包帯を巻きつけた。それからロザリオを祐巳の手に返す。

 頭に包帯を巻きつけた祐巳ちゃんは、ロザリオをにぎりしめて呆然としたまま、

「あの……いったい何があったんでしょうか?」

「この子が――由乃がどうしてもこの星を出て行く、そのためには銀杏鉄道のパスが必要だと言い出してね」

 祐巳ちゃんは起き上がって、馬車の上に寝かせられた由乃を見た。

「それで私を――でも、どうなったんでしょう?」

「料理や菓子に、即効性の睡眠薬を盛ったのよ。これで、列車が出発するまでは目覚めないわ」

 いったん列車が出てしまえば、次に999号が来るのは一年以上も先のこと。あきらめるしかないでしょう。――令はふと口元に、ほの暗い笑みを浮かべると、

「さあ。シルチス駅まで送るわ」

 馬車に乗るよう祐巳ちゃんを促した。

 

 祐巳がホームに戻ると、祥子さまはベンチに座って本を読んでいた。

「おかえり、祐巳……あら」

 祥子さまは立ち上がり、近づいてくると、

「あなた、あれだけ言ったのに――曲がってるじゃないの」

 包帯にお手をかけてこられた。――タイはともかく、包帯のことまでは気が回らなかった。

(――というか、祥子さま、あなた先にそれですか)

 とはいえ、かの恐るべき機関車様なら、この包帯の乱れにも文句をつけるのかもしれないけど。祐巳がボンヤリ考えるうちにも、祥子さまは手際よく包帯を整えなおしてしまう。それから、ようやく

「で、その怪我はどうしたの?」

と訊いてきた。

 祐巳が分かるかぎりの事情を一通り話すと、祥子さまはひとこと、

「――そう」

とおっしゃった。

 そして、しばらく黙ったままだったが、

「もうそんなに時間はないわ。先に列車に乗っていなさい、祐巳」

というと、ホームの出口へ向けて歩き出した。

「祥子さま、今からどこへ?」

「――すぐ戻るわ」

 そういって立ち去る間際、祐巳のお腹がとつぜん、きゅるきゅると鳴った。

「――あなた、ひょっとして何も食べてないの?」

「は、はい」

「仕方ないわね。――手のひらを上にして、手をお出しなさい」

 祐巳が言われたとおりにすると、

「あとで、食堂車へ行きましょう」

 手のひらの上には、のど飴がコロンと二つ、のっていた。祥子さまはそのまま振り返らず行ってしまった。

「……」

 祐巳は黙って列車の席に戻ると、のど飴を握り締めたまま、じっと見つめていた。

 おなかがすいたのを忘れた。

 ――どれくらいたっただろうか。

 ズゥオオオオオオーーーーン!!!!

 凄まじい爆音と震動が列車をゆるがせた。

「な、なななな、何っ!!」

 祐巳は立ち上がり、ハッとなって、

「さ、祥子さまっ!」

「どうしたの、祐巳」

「え……」

 見るといつのまにか、車両の入り口に祥子さまが立っている。

「待たせたわね、もうすぐ出発よ」

「さ、祥子さま、今のは?」

 窓の外を見ると――町のほうで黒煙があがっているのが見えた。

「――何かしらね」

 ベルが鳴った。列車がゆっくりと動き出す。

 祥子さまが口を開いた。

「それからね、祐巳。もうあなたは銀杏鉄道のスールなんだから、これから私のことは〈祥子さま〉ではなくて〈お姉さま〉と呼ぶようになさい」

「お姉さま――ですか」

「自分の力で切り抜けていくしかない大宇宙――その中で信じあい、手を取り合って、ともにその宇宙を渡っていく人間への、それが礼儀なのよ」

「はい、祥子――お姉さま……あの」

「なあに?」

「……いえ」

(――あの爆発は何だったんでしょう――いえ)

 あなた――何をしてきたんですか、お姉さま?

 

 窓の外、はるか下、吹きすさぶ火星の赤い風に黒煙が吹き散らされて――やがて見えなくなっていった。 

 

 火星に吹く赤い風の音は、その赤い砂の下で眠る者の、

すすり泣きだと人はいう。

 ――すすり泣きだろうと何だろうと物ともせぬ祥子さまに、

「まだしも激怒して、怒鳴り散らしてくださった方がましかも」と、

祐巳は怖くなった。 

  

(第3話に続くか) 

(to be continued or not)

 

       

 Copyright 松本零士、東映アニメーション、エイベックス

 

祐巳よ、

相手がクマでも萌えることのできる

人の心の美しさを見ておけ

祐巳よ、

どんなに痛くても歯医者に行けない

人の心の醜さを見ておけ

       

次回の銀杏鉄道999は、

『タイタンで寝ぼけてフヌケ』に停まります

 

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